イ、番兵、おやといスイス兵、走り使いの小者《こもの》までのこらず、杖《つえ》でさわりました。それから、おなじようにして、べっとうといっしょに、うまやでねている馬も、裏庭に遊んでいるむく犬も、お姫さまのねだいの上で眠っているお手|飼《がい》の狆《ちん》までも、みんな魔法の杖でさわりました。
魔法の杖でさわると、すぐ、たれもかれも、なにもかも、たわいもなく眠りこけてしまって、お姫さまが目がさますまでは、けっして目をさましませんし、お姫さまに用事ができれば、いつでも目をさまして、御用をつとめるはずでした。なにもかも眠ってしまったといって、それはかまどの前の焼きぐしまでが、きじや、やまどりの肉をくしにさしたまま、やはり眠ってしまいました。これだけのことが、みんな、ほんの目《ま》ばたきひとつするまに、できあがってしまいました。妖女《ようじょ》というものは、まったくしごとの早いものですね。
さてそこで、王様とお妃とは、お姫さまのひたいに、そっと、やさしくほおずりして、お城から出て行きました。そうしておいて、たれもお城に近づくことはならないという、きびしいおふれを、また国じゅうにまわしました。
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