」
「さあ、さし当《あ》たり綱渡《つなわた》りの軽《かる》わざに、文福《ぶんぶく》茶《ちゃ》がまの浮《う》かれ踊《おど》りをやりましょう。もうくず屋《や》なんかやめてしまって、見世物師《みせものし》におなんなさい。あしたからたんとお金《かね》がもうかりますよ。」
こう言《い》われてくず屋《や》はすっかり乗《の》り気《き》になってしまいました。そして茶《ちゃ》がまのすすめるとおりくず屋《や》をやめてしまいました。
そのあくる日|夜《よ》が明《あ》けると、くず屋《や》はさっそく見世物《みせもの》のしたくにかかりました。まず町《まち》の盛《さか》り場《ば》に一|軒《けん》見世物小屋《みせものごや》をこしらえて、文福《ぶんぶく》茶《ちゃ》がまの綱渡《つなわた》りと浮《う》かれ踊《おど》りの絵《え》をかいた大看板《おおかんばん》を上《あ》げ、太夫元《たゆうもと》と木戸番《きどばん》と口上《こうじょう》言《い》いを自分《じぶん》一人《ひとり》で兼《か》ねました。そして木戸口《きどぐち》に座《すわ》って大きな声《こえ》で、
「さあ、さあ、大評判《おおひょうばん》の文福《ぶんぶく》茶《ちゃ》がまに毛《け》が生《は》えて、手足《てあし》が生《は》えて、綱渡《つなわた》りの軽《かる》わざから、浮《う》かれ踊《おど》りのふしぎな芸当《げいとう》、評判《ひょうばん》じゃ、評判《ひょうばん》じゃ。」
と呼《よ》び立《た》てました。
往来《おうらい》の人たちは、ふしぎな看板《かんばん》とおもしろそうな口上《こうじょう》に釣《つ》られて、ぞろぞろ見世物小屋《みせものごや》へ詰《つ》めかけて来《き》て、たちまち、まんいんになってしまいました。
やがて拍子木《ひょうしぎ》が鳴《な》って、幕《まく》が上《あ》がりますと、文福《ぶんぶく》茶《ちゃ》がまが、のこのこ楽屋《がくや》から出て来《き》て、お目見《めみ》えのごあいさつをしました。見《み》るとそれは思《おも》いもつかない、大きな茶《ちゃ》がまに手足《てあし》の生《は》えた化《ば》け物《もの》でしたから、見物《けんぶつ》はみんな「あっ。」と言《い》って目をまるくしました。
それだけでもふしぎなのに、その茶《ちゃ》がまの化《ば》け物《もの》が両方《りょうほう》の手《て》に唐傘《からかさ》をさして扇《おうぎ》を開《ひら》いて、綱《つな》の上に
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