ま》にか毛《け》むくじゃらな頭《あたま》と太《ふと》いしっぽを出《だ》して、ちょこなんと座《すわ》っていました。くず屋《や》はびっくりして、はね起《お》きました。
「やあ、たいへん。茶《ちゃ》がまが化《ば》けたぞ。」
「くず屋《や》さん、そんなにおどろかないでもいいよ。」
「だっておどろかずにいられるものかい。茶《ちゃ》がまに毛《け》がはえて歩《ある》き出《だ》せば、だれだっておどろくだろうじゃないか。いったいお前《まえ》は何《なん》だい。」
「わたしは文福《ぶんぶく》茶《ちゃ》がまといって、ほんとうはたぬきの化《ば》けた茶《ちゃ》がまですよ。じつはある日|野原《のはら》へ出て遊《あそ》んでいるところを五、六|人《にん》の男《おとこ》に追《お》いまわされて、しかたなしに茶《ちゃ》がまに化《ば》けて草《くさ》の中にころがっていると、またその男《おとこ》たちが見《み》つけて、こんどは茶《ちゃ》がまだ、茶《ちゃ》がまだ、いいものが手《て》に入《はい》った。これをどこかへ売《う》りとばして、みんなでうまいものを買《か》って食《た》べようと言《い》いました。それでわたしは古道具屋《ふるどうぐや》に売《う》られて、店先《みせさき》にさらされて、さんざん窮屈《きゅうくつ》な目にあいました。その上|何《なに》も食《た》べさせてくれないので、おなかがすいて死《し》にそうになったところを、お寺《てら》の和尚《おしょう》さんに買《か》われて行《い》きました。お寺《てら》では、やっと手《て》おけに一ぱいの水をもらって、一口《ひとくち》にがぶ飲《の》みしてほっと息《いき》をついたところを、いきなりいろりにのせられて、お尻《しり》から火あぶりにされたのにはさすがにおどろきました。もうもうあんな所《ところ》はこりこりです。あなたは人のいい、しんせつな方《かた》らしいから、どうぞしばらくわたしをうちに置《お》いて養《やしな》って下《くだ》さいませんか。きっとお礼《れい》はしますから。」
「うん、うん、置《お》いてやるぐらいわけのないことだ。だがお礼《れい》をするってどんなことをするつもりだい。」
「へえ。見世物《みせもの》でいろいろおもしろい芸当《げいとう》をして見《み》せて、あなたにたんとお金《かね》もうけをさせて上《あ》げますよ。」
「ふん、芸当《げいとう》っていったいどんなことをするのだい。
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