、和尚《おしょう》さんは、「わあッ。」と言《い》って、思《おも》わずとび上《あ》がりました。
「たいへん、たいへん。茶《ちゃ》がまが化《ば》けた。だれか来《き》てくれ。」
 和尚《おしょう》さんがびっくりして大きな声《こえ》で呼《よ》び立《た》てますと、小僧《こぞう》さんたちは、
「そら来《き》た。」
 というので、向《む》こう鉢巻《はちま》きで、ほうきやはたきを持《も》ってとび込《こ》んで来《き》ました。でももうその時分《じぶん》にはもとの茶《ちゃ》がまになって、布団《ふとん》の上にすましていました。たたけばまた「かん。かん。」と鳴《な》りました。
 和尚《おしょう》さんはまだびっくりしたような顔《かお》をしながら、
「どうもいい茶《ちゃ》がまを手《て》に入《い》れたと思《おも》ったら、とんだものをしょい込《こ》んだ。どうしたものだろう。」
 と考《かんが》えていますと、門《もん》の外《そと》で、
「くずい、くずい。」
 という声《こえ》がしました。
「ああ、いいところへくず屋《や》が来《き》た。こんな茶《ちゃ》がまはいっそくず屋《や》に売《う》ってしまおう。」
 和尚《おしょう》さんはこう言《い》って、さっそくくず屋《や》を呼《よ》ばせました。
 くず屋《や》は和尚《おしょう》さんの出《だ》した茶《ちゃ》がまを手《て》に取《と》って、なでてみたり、たたいてみたり、底《そこ》をかえしてみたりしたあとで、
「これはけっこうな品物《しなもの》です。」
 と言《い》って、茶《ちゃ》がまを買《か》って、くずかごの中に入《い》れて持《も》って行きました。

     二

 茶《ちゃ》がまを買《か》ったくず屋《や》は、うちへ帰《かえ》ってもまだにこにこして、
「これはこのごろにない掘《ほ》り出《だ》しものだ。どうかして道具《どうぐ》ずきなお金持《かねも》ちをつかまえて、いい価《ね》に売《う》らなければならない。」
 こう独《ひと》り言《ごと》を言《い》いながら、その晩《ばん》はだいじそうに茶《ちゃ》がまをまくら元《もと》に飾《かざ》って、ぐっすり寝《ね》ました。すると真夜中《まよなか》すぎになって、どこかで、
「もしもしくず屋《や》さん、くず屋《や》さん。」
 と呼《よ》ぶ声《こえ》がしました。はっとして目をさましますと、まくら元《もと》にさっきの茶《ちゃ》がまがいつの間《
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