さわぎ出《だ》しました。その音《おと》に和尚《おしょう》さんは目をさまして、
「やかましい、何《なに》をさわぐのだ。」
と目をこすりながらしかりました。
「でも和尚《おしょう》さん、ごらんなさい。ほら、あのとおり茶《ちゃ》がまが歩《ある》きますよ。」
こうてんでんに言《い》うので、和尚《おしょう》さんも小僧《こぞう》さんたちの指《ゆび》さす方《ほう》を見《み》ますと、茶《ちゃ》がまにはもう頭《あたま》も足《あし》もしっぽもありません。ちゃんともとの茶《ちゃ》がまになって、いつの間《ま》にか布団《ふとん》の上にのって、すましていました。和尚《おしょう》さんはおこって、
「何《なん》だ。ばかなことを言《い》うにもほどがある。」
「でもへんだなあ。たしかに歩《ある》いていたのに。」
こう言《い》いながら小僧《こぞう》さんたちはふしぎそうに、寄《よ》って来《き》て茶《ちゃ》がまをたたいてみました。茶《ちゃ》がまは「かん。」と鳴《な》りました。
「それみろ。やっぱりただの茶《ちゃ》がまだ。くだらないことを言《い》って、せっかくいい心持《こころも》ちに寝《ね》ているところを起《お》こしてしまった。」
和尚《おしょう》さんにひどくしかられて、小僧《こぞう》さんたちはしょげて、ぶつぶつ口こごとを言《い》いながら引《ひ》っ込《こ》んでいきました。
そのあくる日|和尚《おしょう》さんは、
「せっかく茶《ちゃ》がまを買《か》って来《き》て、ながめてばかりいてもつまらない。今日《きょう》はひとつ使《つか》いだめしをしてやろう。」
と言《い》って、茶《ちゃ》がまに水をくみ入《い》れました。すると小さな茶《ちゃ》がまのくせに、いきなり手《て》おけに一ぱいの水をがぶりと飲《の》んでしまいました。
和尚《おしょう》さんは少《すこ》し「へんだ。」と思《おも》いましたが、ほかに変《か》わったこともないので、安心《あんしん》してまた水を入《い》れて、いろりにかけました。すると、しばらくしてお尻《しり》があたたまってくると、茶《ちゃ》がまはだしぬけに、「あつい。」と言《い》って、いろりの外《そと》へとび出《だ》しました。おやと思《おも》う間《ま》にたぬきの頭《あたま》が出て、四|本《ほん》の足《あし》が出て、太《ふと》いしっぽがはえて、のこのことおざしきの中を歩《ある》き出《だ》しましたから
前へ
次へ
全7ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング