てなすりはじめました。
「それ、登《のぼ》るぞ。」
 といいながら、山姥《やまうば》は桃《もも》の木に足《あし》をかけますと、つるり、びんつけにすべりました。それからつるつる、つるつる、何度《なんど》も何度《なんど》もすべりながら、それでも強情《ごうじょう》に一|間《けん》ばかり登《のぼ》りましたが、とうとう一息《ひといき》につるりとすべって、ずしんと地《じ》びたにころげ落《お》ちました。
 すると次郎《じろう》が上から、
「ばかな山姥《やまうば》だなあ、びんつけをつけて木に登《のぼ》れるものか。なたで切《き》り形《がた》をつけて登《のぼ》るんだ。」
 といって笑《わら》いました。
「そのなたはどうした。」
 と、山姥《やまうば》が聞《き》きますから、
「なたは井戸《いど》のそこに入《はい》っているよ。」
 と、次郎《じろう》はいってまた笑《わら》いました。山姥《やまうば》は井戸《いど》のそこをのぞいてみましたが、とても手がとどかないので、くやしがって、物置《ものおき》から鎌《かま》をさがして来《き》て、桃《もも》の木のびんつけを削《けず》り落《お》として、新《あたら》しく切《き》り形
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