だって赤《あか》んぼを泣《な》かして、みんなをだまして、お前《まえ》にしごとをさせてやったのじゃないか。」
 と、蟹《かに》がいいました。でも猿《さる》は、
「ぐちをいうな。それよりか駆《か》けっくらで来《こ》い。」
 といって、かまわず臼《うす》を坂《さか》の上からころがしました。臼《うす》はころころころがって行きました。猿《さる》もいっしょに追《お》っかけて行きます。しかたがないので、蟹《かに》もむずむずあとからはって行きますと、ちょうど坂《さか》の中ほどまで行かないうちに、餅《もち》は臼《うす》の中からはみ出《だ》して、道《みち》ばたの木の根《ね》にひっかかりました。そして、臼《うす》ばかりころころ下までころげて行きました。そんなことは知《し》らないものですから、猿《さる》もいっしょに臼《うす》を追《お》っかけて、どこまでもころがって行きました。
 蟹《かに》は途中《とちゅう》、木の根《ね》に白いものが見《み》えるので、ふしぎに思《おも》ってそばへ寄《よ》ってみますと、つきたての餅《もち》でしたから、「これはうまい。」と思《おも》って、一人《ひとり》でおいしそうに食《た》べはじめ
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