には居《い》ませんでした。
 蟹《かに》はその時《とき》、のそのそと縁《えん》がわからはい上《あ》がって行《い》って、赤《あか》んぼの手をちょきんと一つはさみました。すると赤《あか》んぼはびっくりして、痛《いた》がって、「わっ。」と火のつくように泣《な》き出《だ》しました。お庭《にわ》に出ていた人たちは、どうしたのかと思《おも》って、びっくりして、臼《うす》も杵《きね》も残《のこ》らずほうり出して、お座敷《ざしき》へかけつけますと、もうその時分《じぶん》には、蟹《かに》はのそのそ逃《に》げ出《だ》して行ってしまいました。みんなは赤《あか》んぼがどうして泣《な》いたのか、さっぱり分《わ》からないので、ぶつぶついいながら、またお庭《にわ》へ戻《もど》って行きますと、つきかけの餅《もち》が一臼《ひとうす》そっくり、臼《うす》のままなくなっていました。みんなは二|度《ど》ばかにされたので、くやしがって、外《そと》へ追《お》っかけて出てみましたが、こんども何《なに》も見《み》えませんでした。
 蟹《かに》は坂《さか》の上まで行って、猿《さる》の来《く》るのを待《ま》っていますと、猿《さる》は大き
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