ました。猿《さる》はせっかく下まで駆《か》けて行ってみると、空臼《からうす》だったものですから、がっかりして、
「こらこら、早《はや》く餅《もち》をころがさないか。」
 と下からどなりました。すると蟹《かに》はあざ笑《わら》って、
「つきたての餅《もち》が坂《さか》をころがるものか。今《いま》に堅《かた》くなってお鏡餅《かがみもち》になったら、ころがしてやろう。」
 といいました。猿《さる》は腹《はら》を立てましたが、自分《じぶん》からいいだして、したことですから、しかたなしに蟹《かに》にあやまって、おしりの毛《け》を抜《ぬ》いて蟹《かに》にやって、半分《はんぶん》餅《もち》を分《わ》けてもらいました。それでいまだにお猿《さる》のおしりには毛《け》がなくなって、蟹《かに》の手足《てあし》には毛《け》が生《は》えているのだそうです。

     狐《きつね》と獅子《しし》

 むかし、日本《にっぽん》の狐《きつね》がシナに渡《わた》って、あちらのけだものたちの仲間《なかま》に入《はい》ってくらしていました。
 ある時《とき》、けだものたちが、大ぜい森《もり》の中に集《あつ》まって、めいめいかってなじまん話《ばなし》をはじめました。するとみんなの話《はなし》を聞《き》いていた獅子《しし》が、さもさもうるさいというような顔《かお》をして、
「だれがなんといったって、世界中《せかいじゅう》でおれの威勢《いせい》にかなう者《もの》はあるまい。おれが一声《ひとこえ》うなれば、十|里《り》四|方《ほう》の家《いえ》に地震《じしん》が起《お》こって、鍋釜《なべかま》に残《のこ》らずひびがいってしまう。」
 といいました。
 すると、虎《とら》が負《ま》けない気《き》になって、
「なんの、おれが一走《ひとはし》り走《はし》れば、千|里《り》のやぶも一飛《ひとと》びだ。くやしがっても、おれの足《あし》にかなうものはあるまい。」
 といいました。
 その時《とき》、日本《にっぽん》の狐《きつね》も、負《ま》けない気《き》になって、
「どうして、からだこそ小さくっても、君《きみ》たちに負《ま》けるものか。」
 といばっていいました。
 すると、獅子《しし》がおこって、
「生意気《なまいき》をいうな。ちっぽけな国《くに》に生《う》まれた小狐《こぎつね》のくせに。よし、そこにじっとしていろ。一
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