な臼《うす》をころがしながらやって来《き》ました。
「どうだ。うまくいったじゃないか。さあ、食《た》べよう。」
と、蟹《かに》がいいますと、
「うん、なかなか重《おも》いので骨《ほね》が折《お》れたよ。だがこれですぐ食《た》べては、楽《たの》しみがなくなっておもしろくないなあ。どうだ、この臼《うす》をここからころがすから、二人《ふたり》であとから追《お》っかけて行って、先《さき》に着《つ》いた者《もの》が餅《もち》を食《た》べることにしよう。」
と、猿《さる》がいいました。
すると蟹《かに》は口からあぶくを吹《ふ》きながら、
「猿《さる》さん、それはだめだよ。駆《か》けっくらをしたって、わたしがお前《まえ》にかなわないことは分《わ》かりきっているではないか。そんないじの悪《わる》いことをいわずに、仲《なか》よく半分《はんぶん》ずつ食《た》べよう。」
と、こういいましたが、猿《さる》は聴《き》かないで、
「いやならよせ。おれが一人《ひとり》で食《た》べてしまう。重《おも》い思《おも》いをして、臼《うす》をかついで来《き》たのはおれだからなあ。」
といいました。
「だって、わたしだって赤《あか》んぼを泣《な》かして、みんなをだまして、お前《まえ》にしごとをさせてやったのじゃないか。」
と、蟹《かに》がいいました。でも猿《さる》は、
「ぐちをいうな。それよりか駆《か》けっくらで来《こ》い。」
といって、かまわず臼《うす》を坂《さか》の上からころがしました。臼《うす》はころころころがって行きました。猿《さる》もいっしょに追《お》っかけて行きます。しかたがないので、蟹《かに》もむずむずあとからはって行きますと、ちょうど坂《さか》の中ほどまで行かないうちに、餅《もち》は臼《うす》の中からはみ出《だ》して、道《みち》ばたの木の根《ね》にひっかかりました。そして、臼《うす》ばかりころころ下までころげて行きました。そんなことは知《し》らないものですから、猿《さる》もいっしょに臼《うす》を追《お》っかけて、どこまでもころがって行きました。
蟹《かに》は途中《とちゅう》、木の根《ね》に白いものが見《み》えるので、ふしぎに思《おも》ってそばへ寄《よ》ってみますと、つきたての餅《もち》でしたから、「これはうまい。」と思《おも》って、一人《ひとり》でおいしそうに食《た》べはじめ
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