つおれがうなってみせてやるから。きさまのちっぽけな体《からだ》なんか、ひとちぢみにちぢんで、ごみのように吹《ふ》ッ飛《と》んでしまうぞ。」
 こういいながら、獅子《しし》はおなかに力《ちから》を入《い》れて、一声《ひとこえ》「うう。」とうなりはじめました。さすがにいばっただけのことはあって、それはほんとうに、そこらに居《い》る者《もの》の体《からだ》ごと、吹《ふ》き飛《と》ばしそうな勢《いきお》いでしたから、狐《きつね》はあわてて、地《じ》びたに小さな穴《あな》をほって、その中に小さくなって、もぐり込《こ》みました。そして、うなり声《ごえ》がやむと、ひょいと中から飛《と》び出《だ》して来《き》て、
「なんだ、獅子《しし》さん、大《たい》そういばったが、それだけのことか。ごみのように吹《ふ》き飛《と》ばされるどころか、このとおり貧乏《びんぼう》ゆるぎもしないよ。」
 とさんざんにあざけりました。すると獅子《しし》は、こんどこそ、ほんとうに体中《からだじゅう》の毛《け》を逆立《さかだ》てておこって、力《ちから》いっぱい意気張《いきば》って、一声《ひとこえ》「うう。」とうなりますと、あんまり力《りき》んだひょうしに、首《くび》がすぽんと抜《ぬ》けてしまいました。狐《きつね》は、そこでいよいよとくいになって、こんどは虎《とら》に向《む》かい、
「どうしたね。わたしにさからえば、獅子《しし》だってこのとおりだ。君《きみ》もいいかげんにおそれいるがいいよ。」
 といいますと、虎《とら》はなかなか承知《しょうち》しないで、
「よし、そんなら千|里《り》のやぶを、かけっこしよう。」
 といいだしました。狐《きつね》は困《こま》った顔《かお》もしないで、
「うん、いいとも。」
 といって、さっそく競争《きょうそう》の支度《したく》にかかりました。やがて一、二、三のかけ声《ごえ》で、虎《とら》と狐《きつね》は駆《か》け出《だ》したと思《おも》うと、狐《きつね》はひょいとうしろから虎《とら》の背中《せなか》に、のっかってしまいました。虎《とら》はそんなことは知《し》りませんから、むやみに駆《か》けるわ、駆《か》けるわ、千|里《り》のやぶもほんとうに一ッ飛《と》びで飛《と》んで行ってしまいますと、さすがに体中《からだじゅう》大汗《おおあせ》になっていました。するとそれよりも先《さき》に狐《
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