《むねとう》、宗任《むねとう》。」とお供《とも》につれて歩《ある》いていました。
するとある晩《ばん》のことでした。義家《よしいえ》はたった一人《ひとり》宗任《むねとう》をお供《とも》につれて、ある人の家《いえ》をたずねに行《い》って、夜《よる》おそく帰《かえ》って来《き》ました。宗任《むねとう》は牛車《うしぐるま》を追《お》いながら、今夜《こんや》こそ義家《よしいえ》を殺《ころ》してやろうと思《おも》いました。そこで懐《ふところ》からそろそろ刀《かたな》を抜《ぬ》きかけて、そっと車《くるま》の中をのぞきますと、中では義家《よしいえ》がなんにも胸《むね》にわだかまりのない顔《かお》をして、すやすや眠《ねむ》っていました。宗任《むねとう》はその時《とき》、
「敵《てき》のわたしにただ一人《ひとり》供《とも》をさせて、少しも疑《うたが》う気色《けしき》も見《み》せない。どこまで心《こころ》のひろい、りっぱな人だろう。」
と感心《かんしん》して、抜《ぬ》きかけた刀《かたな》を引《ひ》っこめてしまいました。そしてそれからはまったく義家《よしいえ》になついて、一生《いっしょう》そむきませんで
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