えして、逃《に》げて行こうとしますと、義家《よしいえ》は後《うし》ろから大きな声《こえ》で、
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「衣《ころも》のたては
ほころびにけり。」
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 と和歌《わか》の下《しも》の句《く》をうたいかけました。すると貞任《さだとう》も逃《に》げながら振《ふ》り向《む》いて、
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「年《とし》を経《へ》し
糸《いと》の乱《みだ》れの
苦《くる》しさに。」
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 とすぐに上《かみ》の句《く》をつけました。これは戦《いくさ》の場所《ばしょ》がちょうど衣川《ころもがわ》のそばの「衣《ころも》の館《たて》」という所《ところ》でしたから、義家《よしいえ》が貞任《さだとう》に、
「お前《まえ》の衣《ころも》ももうほころびた。お前《まえ》の運《うん》ももう末《すえ》だ。」
 とあざけったのでございます。すると貞任《さだとう》も負《ま》けずに、
「それはなにしろ長年《ながねん》の戦《いくさ》で、衣《ころも》の糸《いと》もばらばらにほごれてきたからしかたがない。」
 とよみかえしたのでした。
 これで義家《よしいえ》もいかにも貞
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