《おとめ》が、見《み》ると自分《じぶん》の羽衣《はごろも》は影《かげ》も形《かたち》も見《み》えません。松風《まつかぜ》ばかりがさびしそうな音《おと》を立《た》てていました。少女《おとめ》はその時《とき》、
「まあ、わたしの羽衣《はごろも》が。」
 といったなり、あわててそこらを探《さが》しはじめました。もうその時《とき》には、仲間《なかま》の少女《おとめ》たちは、七|人《にん》とも空《そら》の上に舞《ま》い上《あ》がって、見《み》る間《ま》に、ずんずん、ずんずん、遠《とお》くなっていきました。
「まあ、どうしましょう。羽衣《はごろも》がなくなっては、天《てん》へは帰《かえ》られない。」
 と少女《おとめ》はくらい目をして、うらめしそうに空《そら》を見上《みあ》げました。青々《あおあお》と晴《は》れた大空《おおぞら》の上に、ぽつん、ぽつんと、白い点々《てんてん》のように見《み》えていた、仲間《なかま》の少女《おとめ》たちの姿《すがた》も、いつの間《ま》にか、その点々《てんてん》すら見《み》えないほどの遠《とお》くにへだたって、間《あいだ》には春《はる》の霞《かすみ》が、いくえにもいくえ
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