たくいいつけられていましたから、強《つよ》く首《くび》を振《ふる》って、
「それはいけませんよ。」
といいました。
「なぜ、いけないのでしょう。」
と少女《おとめ》は子供《こども》らしい目をくりくりとさせて、さもふしぎそうにたずねました。
「だって羽衣《はごろも》を見《み》せると、それを着《き》て、また天《てん》へ帰《かえ》ってしまうでしょう。」
「まあ、わたくし、人間《にんげん》の世界《せかい》がすっかり好《す》きになったと申《もう》し上《あ》げたではございませんか。おかあさん、お願《ねが》いです、ほんの一目《ひとめ》見《み》ればいいのですから。」
と、少女《おとめ》はしきりとおかあさんに甘《あま》えるように頼《たの》んでいました。そのかわいらしい様子《ようす》を見《み》ていると、おかあさんは、何《なん》でもそのいうとおりにしてやらなければならないような気《き》がしてきました。
「ではほんのちょいとですよ、伊香刀美《いかとみ》にはないしょでね。」
とおかあさんはいいながら、戸棚《とだな》の奥《おく》にしまってある箱《はこ》を出《だ》しました。少女《おとめ》は胸《むね》をどきつ
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