こへ来《き》なすってからもう三|年《ねん》になるよ。月日《つきひ》のたつのは早《はや》いものだね。」
 といいました。少女《おとめ》はそっとため息《いき》をつきながら、
「ほんとうに早《はよ》うございますこと。」
 といいました。
「お前《まえ》、今《いま》でも天《てん》へ帰《かえ》りたいだろうね。」
「ええ、それははじめのうちはずいぶん帰《かえ》りとうございましたが、今《いま》では人間《にんげん》の暮《く》らしに慣《な》れて、この世界《せかい》が好《す》きになりました。」
 と答《こた》えながら、何気《なにげ》なく、
「そういえば、おかあさん、あの時《とき》の羽衣《はごろも》はどうなったでしょうね。あれなり伊香刀美《いかとみ》さんにおあずけしたままになっておりますが、長《なが》い間《あいだ》にいたみはしないかと、気《き》にかかります。おかあさん、あの、ちょいとでよろしゅうございますから、見《み》せて下《くだ》さいませんか。お願《ねが》いです。」
 といいました。
 おかあさんは伊香刀美《いかとみ》から、どんなことがあっても少女《おとめ》に羽衣《はごろも》を見《み》せてはならないと、か
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