かせながらのぞき込《こ》みますと、おかあさんはそっと箱《はこ》のふたをあけました。中からはぷんといい香《かお》りがたって、羽衣《はごろも》はそっくり元《もと》のままで、きれいにたたんで入《い》れてありました。
「まあ、そっくりしておりますのね。」
と少女《おとめ》は目を輝《かがや》かしながら見《み》ていましたが、
「でも、もしどこかいたんでいやしないかしら。」
というなり、箱《はこ》の中の羽衣《はごろも》を手に取《と》りました。そしておかあさんが「おや。」と止《と》めるひまもないうちに、手ばやく羽衣《はごろも》を着《き》ると、そのまますうっと上へ舞《ま》い上《あ》がりました。
「ああ、あれあれ。」
と、おかあさんは両手《りょうて》をひろげてつかまえようとしました。その間《ま》に少女《おとめ》の姿《すがた》は、もう高《たか》く高《たか》く空《そら》の上へ上《あ》がっていって、やがて見《み》えなくなりました。
帰《かえ》って来《き》て伊香刀美《いかとみ》はどんなにがっかりしたでしょう。三|年前《ねんまえ》に湖《みずうみ》のそばで少女《おとめ》がしたように、足《あし》ずりをしてくやし
前へ
次へ
全13ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング