そうな顔《かお》をして、後《あと》からついていきました。
少女《おとめ》は羽衣《はごろも》にひかれて、とうとう伊香刀美《いかとみ》のうちまで行きました。そして伊香刀美《いかとみ》といっしょに、そのおかあさんのそばで暮《く》らすことになりました。でも始終《しじゅう》どうかして天《てん》に帰《かえ》りたいと思《おも》って、折《おり》があったら羽衣《はごろも》を取《と》り返《かえ》して、逃《に》げよう逃《に》げようとしました。伊香刀美《いかとみ》も少女《おとめ》の心《こころ》を知《し》っているので、羽衣《はごろも》をどこかへしまったまま、少女《おとめ》の目にはふれさせませんでした。少女《おとめ》は毎日《まいにち》のように空《そら》をながめては、人しれず悲《かな》しそうなため息《いき》をついていました。
二
そうこうするうちに三|年《ねん》たちました。
ある日|伊香刀美《いかとみ》は、いつものように朝《あさ》早《はや》くりょうに出かけました。少女《おとめ》は伊香刀美《いかとみ》のおかあさんといろいろ話《はなし》をしているついでに、ふとおかあさんが、
「まあ、お前《まえ》がここへ来《き》なすってからもう三|年《ねん》になるよ。月日《つきひ》のたつのは早《はや》いものだね。」
といいました。少女《おとめ》はそっとため息《いき》をつきながら、
「ほんとうに早《はよ》うございますこと。」
といいました。
「お前《まえ》、今《いま》でも天《てん》へ帰《かえ》りたいだろうね。」
「ええ、それははじめのうちはずいぶん帰《かえ》りとうございましたが、今《いま》では人間《にんげん》の暮《く》らしに慣《な》れて、この世界《せかい》が好《す》きになりました。」
と答《こた》えながら、何気《なにげ》なく、
「そういえば、おかあさん、あの時《とき》の羽衣《はごろも》はどうなったでしょうね。あれなり伊香刀美《いかとみ》さんにおあずけしたままになっておりますが、長《なが》い間《あいだ》にいたみはしないかと、気《き》にかかります。おかあさん、あの、ちょいとでよろしゅうございますから、見《み》せて下《くだ》さいませんか。お願《ねが》いです。」
といいました。
おかあさんは伊香刀美《いかとみ》から、どんなことがあっても少女《おとめ》に羽衣《はごろも》を見《み》せてはならないと、か
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