ら見《み》て、大将《たいしょう》の義朝《よしとも》をさえ射落《いお》とせば、一|度《ど》に勝負《しょうぶ》がついてしまうのだと考《かんが》えました。そこで弓《ゆみ》に矢《や》をつがえて、義朝《よしとも》の方《ほう》にねらいをつけました。
「あの仰《あお》むけている首筋《くびすじ》を射《い》てやろうか。だいぶ厚《あつ》い鎧《よろい》を着《き》ているが、あの上から胸板《むないた》を射《い》とおすぐらいさしてむずかしくもなさそうだ。」
 こう為朝《ためとも》は思《おも》いながら、すぐ矢《や》を放《はな》そうとしましたが、ふと、
「いや待《ま》て。いくら敵《てき》でもにいさんはにいさんだ。それにこうして父子《おやこ》わかれわかれになっていても、おとうさんとにいさんの間《あいだ》に内《ない》しょの約束《やくそく》があって、どちらが負《ま》けてもお互《たが》いに助《たす》け合《あ》うことになっているのかもしれない。」
 と思《おも》い返《かえ》して、わざとねらいをはずして、義朝《よしとも》の兜《かぶと》に射《い》あてました。すると矢《や》は兜《かぶと》の星《ほし》を射《い》けずって、その後《うし》
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