げようともしませんでした。
 為朝《ためとも》は、おもしろく思《おも》いませんでしたけれど、むりに争《あらそ》ってもむだだと思《おも》いましたから、そのままおじぎをして退《しりぞ》きました。そして心《こころ》の中では、
「何《なに》もしらない公卿《くげ》のくせによけいな差《さ》し出口《でぐち》をするはいいが、今《いま》にあべこべに敵《てき》から夜討《よう》ちをしかけられて、その時《とき》にあわててもどうにもなるまい。こんなふうでは、この戦《いくさ》にはとても勝《か》てる見込《みこ》みはない。まあ、働《はたら》けるだけ働《はたら》いて、あとはいさぎよく討《う》ち死《じ》にをしよう。」
 と思《おも》いました。
 こう覚悟《かくご》をきめると、それからはもう為朝《ためとも》はぴったり黙《だま》り込《こ》んだまま、しずかに敵《てき》の寄《よ》せてくるのを待《ま》っていました。
 すると案《あん》の定《じょう》、その晩《ばん》夜中《よなか》近《ちか》くなって、敵《てき》は義朝《よしとも》と清盛《きよもり》を大将《たいしょう》にして、どんどん夜討《よう》ちをしかけて来《き》ました。
 頼長《より
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