出《だ》して、そこらを見回《みまわ》りました。けれども、何《なに》もそこにはほえ立《た》てるような怪《あや》しいものの、影《かげ》も形《かたち》も見《み》えませんでした。ほかの犬《いぬ》たちも目を覚《さ》まさせられて、いっしょにわんわんほえながら、これもやはり獲物《えもの》をかぎ回《まわ》っていましたが、何《なに》も見《み》つからないので、すごすご、しっぽを振《ふる》ってもどって来《き》ました。
 その中でも、さっきの犬《いぬ》は、あいかわらず気違《きちが》いのようにほえ回《まわ》って、主人《しゅじん》のすそを引《ひ》っ張《ぱ》るやら、背中《せなか》に飛《と》びつくやら、たいそうらんぼうになって、しまいには今《いま》にもかみつくかと思《おも》うように、はげしく主人《しゅじん》にほえかかりました。だんだん、その様子《ようす》がおそろしくなるので、りょうしも気味《きみ》が悪《わる》くなりました。刀《かたな》を抜《ぬ》いておどしますと、犬《いぬ》はなおなおはげしく狂《くる》い回《まわ》って、りょうしの振《ふ》り上《あ》げる刀《かたな》の下をくぐって、いきなりその胸《むね》に飛《と》びつきまし
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