うちへ帰《かえ》ろうにも帰《かえ》れなくなりました。仕方《しかた》がないので、今夜《こんや》は山の中に野宿《のじゅく》をすることにきめました。一|本《ぽん》の大きな木の、うつろになった中に入《はい》って、犬《いぬ》どもを木のまわりに集《あつ》めて、たくさんたき火《び》をして、その晩《ばん》は眠《ねむ》ることにしました。するうちつい昼間《ひるま》の疲《つか》れが出て、人も犬《いぬ》も眠《ねむ》るともなく、ぐっすり寝込《ねこ》んでしまいました。

     二

 ふと夜中《よなか》になって、けたたましく犬《いぬ》の鳴《な》き立《た》てる声《こえ》がしました。驚《おどろ》いてりょうしは目を覚《さ》ましました。ぼんやり消《き》え残《のこ》っているたき火《び》の明《あか》りに透《すか》してみますと、中でいちばん賢《かしこ》い、獲物《えもの》を捕《と》ることの上手《じょうず》な犬《いぬ》が、火《ひ》のまわりをぐるぐる回《まわ》りながら、気違《きちが》いのようになってほえ立《た》てていました。りょうしは何事《なにごと》が起《お》こったのかと思《おも》って、山刀《やまがたな》を持《も》って飛《と》び
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