をかく子がありました。
或《ある》日この子は大きな鳥《とり》の子《こ》の紙をどこからか買って来て、綺麗《きれい》にボール紙に貼《は》りつけて、四十八に割った細い罫《けい》を縦横《たてよこ》に引いて、その一つ一つの目に、十二カ月の花や木の細かい画を上手《じょうず》にかきはじめました。
一雄はどんなにそれが欲しかったでしょう。
「貞吉《ていきち》、貞吉、出来たらおくれ、ね。」
貞吉というのは、小僧の名でした。
「でもこれはまだほんとうに出来上《できあが》っていないんですからね、すっかり出来あがったら上げましょう。」
「だっていつのことだか知れないじゃないか、いいからそれをおくれよ。」
「だめですよ、まだ彩色《さいしき》もしてないし……」
「いいよ、彩色なんか僕自分でするから。」
「そんなわがままをおっしゃってはいけません。あなたに彩色ができるものですか。」
「できらい、できらい。おくれってばよう。」
貞吉はそれでも手離そうとはしませんでした。書きのこした桜の花や、鳥の羽《は》の手入れに夢中になっていました。一雄は、とてもだめだと思うと、おどかしの積りでしくしく泣《な》き出《だ》しま
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