した。そのうちほんとうに悲しくなって、おいおい泣きながらお茶の間へ駈《か》け込んで行きました。
「どうしたの。」
 おばあさんはもう目の色を変えていました。
「貞吉が、貞吉が……くれないんだ。」
 貞吉は茶の間へ呼ばれて、さんざん叱《しか》られて、理由《わけ》はなしに、丹精した花ガルタの画を、半できのまま取上げられてしまいまいた。美しく描《えが》かれた梅や牡丹《ぼたん》や菊や紅葉《もみじ》の花ガルタは、その晩から一雄の六|色《いろ》の色鉛筆で惜しげもなく彩《いろど》られてしまいました。
 明くる日の朝、赤や青や黄に醜く塗りつぶされて見るかげもなくなっている貞吉の花ガルタは、もう一度一雄の鋏《はさみ》でめちゃめちゃに切りこまざかれて、縁側から庭に落ち散っていました。
「まあこんなに紙屑《かみくず》をお出しになって、坊《ぼつ》ちゃんはいけませんね。」
 その昼すぎ、女中の清《きよ》はぶつぶついいながら、掃き出していました。たった一枚松に鶴《つる》の絵のカルタが、縁先の飛石《とびいし》の下に挿《はさ》まったまま、その後《のち》しばらく、雨風にさらされていました。一雄はその日からもう花ガルタの
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