焼を口に頬《ほお》ばると、一雄は急にいやな顔をして、すぐはき出してしまいました。
「ああ、臭い、僕いやだこれ、お酒くさいから。」
 一雄は泣き出しそうな顔をしていました。
「お止《よ》し、お止《よ》し。厭《いや》なら上げないから。」
 おばあさんはこういって、いきなり玉子焼のお鍋をとり上げて、中身をそっくりお庭に投げ棄《す》ててしまいました。ちょうど通りかかったポチが見つけてみんな食べてしまいました。
 なぜおばあさんがこんなにおこったのか、一雄にはわかりませんでした。おばあさんもなぜそんなに腹が立つのか、自分でもわかりませんでした。
 二人はお互いにがっかりして、気の毒になって、このおばあさんと、孫とは、別々の心持でしくしく泣き出しました。
 二人の半日楽しみにして待設《まちもう》けた晩御飯はめちゃめちゃになりました。
 おばあさんはお酒の好きな人でした。せっかく孫の口を甘《うま》くしようと思って入れた幾滴かのお酒が、まるっきり予期しない反対の結果を生んだのでした。それを知って、一雄は余計悲しくなりました。

      二 花ガルタ

 一雄の家に奉公していた小僧で、器用に画《え》
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