せました。
「これ何《なん》にするの、おばあさん。」
「玉子をやくのだよ。」
「こんなもので焼くの、おもしろいなあ。」
「これで玉子焼をこしらえてあげるが、食べるかい。」
「ああ。」
 いつもになく一雄が食べたそうな様子をしているので、おばあさんはどんなに喜んだでしょう。
 その日の夕方《ゆうがた》、一雄が茶の間の隅《すみ》っこで、いつまでかかってもほんとうに出来ない積木細工《つみきざいく》のお家《うち》を建てたり、こわしたりしている間《ま》に、おばあさんはせっせと玉子焼のしたくにかかっていました。
 明りがついて、お膳が出ると新調の可愛《かあい》らしい玉子焼のお鍋が、一雄の小さなお膳の上にのっていました。
「ほら、あけてごらん、それはおいしそうに出来たから。」
 一雄が瀬戸物の蓋《ふた》をあけると、ぷんとやわらかな少し焦げくさい、旨そうな匂《にお》いが立ちました。
「まだあついかしら。」
 こういいながら、めずらしくにっこりして、一雄は玉子焼の中に箸を突ッ込みました。
 おばあさんもにこにこしながら、
「ああ、ゆっくり、たんとおあがりよ。」といいました。
 でも一口《ひとくち》、玉子
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