もしろがって、お膳《ぜん》の上を箸《はし》で突ッつきまわしていました。ちょうど梅雨《つゆ》の時分で、お天気のわるい日がよくつづきました。そのうち毎日雨ばかり降るようになりました。
 一雄の気分がだんだん重苦しくなって、眼の奥がしくしく痛む日がつづきました。青い眼がねで何かを見るのが、うっとうしく、じれったくって、悲しくなるほど不愉快でした。
 食物《たべもの》に好《す》ききらいをいう、というよりは、あれもいや、これもいや、のべつに「いや、いや」とばかり、一雄はいいつづけていました。
「僕、何でも青くって食べても旨《うま》くないんだもの。」
「じゃあ御膳《ごぜん》の時だけ眼がねをお取り。」とおばあさんはいいました。
 眼がねを取っても、しばらくはやはり何かが青く見えました。やっと白い光に慣れると、こんどは眩《まぶ》しくって、眼にしみるような劇《はげ》しい痛みを感じました。
「やはり眼がねをかけなければだめなんだよ、おばあさん。」
 あんまり一雄が何も食べないので、おばあさんは心配して、瀬戸物やから小さな瀬戸物の玉子焼鍋《たまごやきなべ》を買って来ました。
 このお鍋の形が大へん一雄を喜ば
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