な山奥《やまおく》で不思議《ふしぎ》だと思《おも》って、これも鬼《おに》の化《ば》けたのではないかと油断《ゆだん》のない目で見《み》ていますと、おじいさんたちはその様子《ようす》を覚《さと》ったとみえて、にこにこしながら、ていねいに頭《あたま》を下《さ》げて、
「わたくしどもは決《けっ》して変化《へんげ》でも、鬼《おに》の化《ば》けたのでもありません。一人《ひとり》は摂津《せっつ》の国《くに》から、一人《ひとり》は紀伊《きい》の国《くに》から、一人《ひとり》は京都《きょうと》に近《ちか》い山城《やましろ》の国《くに》から来《き》たものです。あの山の奥《おく》に住《す》む酒呑童子《しゅてんどうじ》のために妻《つま》や子を取《と》られて残念《ざんねん》でたまりません。どうかして敵《かたき》を取《と》りたいと思《おも》って、ここまで上《のぼ》っては来《き》ましたが、わたくしどもの力《ちから》ではどうすることもできませんから、ここにこうしてあなた方《がた》のおいでを待《ま》ちうけていました。山伏《やまぶし》の姿《すがた》にやつしてはおいでになりますが、あなた方《がた》はきっと酒呑童子《しゅてん
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