お》をじっと見返《みかえ》して、ていねいにあいさつをしました。童子《どうじ》はその時《とき》おうへいな調子《ちょうし》で、
「きさまたちはいったいどこから来《き》た。よくこんな山奥《やまおく》まで上《あ》がって来《き》たものだな。」
 といいました。
 すると頼光《らいこう》が、
「それはわたくしども山伏《やまぶし》のならいで、道《みち》のない山奥《やまおく》までも踏《ふ》み分《わ》けて修行《しゅぎょう》をいたします。わたくしどもはいったい出羽《でわ》の羽黒山《はぐろさん》から出ました山伏《やまぶし》でございますが、この間《あいだ》は大和《やまと》の大峰《おおみね》におこもりをしまして、それから都《みやこ》へ出ようとする途中《とちゅう》道《みち》に迷《まよ》って、このとおりこちらの御厄介《ごやっかい》になることになりました。」
 といいました。酒呑童子《しゅてんどうじ》はそう聞《き》いて、すっかり安心《あんしん》しました。
「それは気《き》の毒《どく》なことだ。まあ、ゆっくり休《やす》んで、酒《さけ》でも飲《の》んで行くがいい。」
 こういうと頼光《らいこう》も、
「それはごちそうです。失礼《しつれい》ではございますが、わたくしどももちょうど酒《さけ》を持《も》ってまいりましたから、この方《ほう》も飲《の》んで頂《いただ》きたいものです。」
 といいました。
「それはありがたい。それでは酒盛《さかも》りをはじめようか。」
 童子《どうじ》はこういって、大《おお》ぜいの腰元《こしもと》や家来《けらい》にいいつけて、酒《さけ》さかなを運《はこ》ばせました。酒呑童子《しゅてんどうじ》はそれでもまだ油断《ゆだん》なく、六|人《にん》の山伏《やまぶし》を試《ため》してみるつもりで、
「それではまず客人《きゃくじん》たちに、わたしの勧《すす》める酒《さけ》を飲《の》んでもらって、それからこんどはわたしがごちそうになることにしよう。」
 といって、酒呑童子《しゅてんどうじ》は大《おお》きな杯《さかずき》になみなみ人間《にんげん》の生《い》き血《ち》を絞《しぼ》って入《い》れて、
「さあ、この酒《さけ》を飲《の》め。」
 といって、頼光《らいこう》にさしました。頼光《らいこう》は困《こま》った顔《かお》もしないで、一息《ひといき》に飲《の》みほしてしまいました。それから保昌《ほうし
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