ごてん》の中で、夜昼《よるひる》お酒《さけ》を飲《の》んで、わたくしどもに歌《うた》を歌《うた》ったり、踊《おど》りを踊《おど》らせたり、手足をさすらせたりして、あきるとつかまえて、むごたらしく生《い》き血《ち》を吸《す》って、骨《ほね》と皮《かわ》ばかりにして捨《す》ててしまいます。このとおり今日《きょう》も、ころされたお友達《ともだち》の血《ち》のついた着物《きもの》をこうして洗《あら》っているのです。」
 といいました。
 頼光《らいこう》は娘《むすめ》を慰《なぐさ》めて、教《おし》えられたとおり行きますと、なるほど大きないかめしい鉄《てつ》の門《もん》が向《む》こうに見《み》えて、黒鬼《くろおに》と赤鬼《あかおに》が番《ばん》をしていました。門《もん》に近《ちか》くなると頼光《らいこう》たちは、わざとくたびれきったように足をひきずってあるきながら、こちらから鬼《おに》に声《こえ》をかけて、
「もしもし、旅《たび》の者《もの》でございますが、山道《やまみち》に迷《まよ》って、もう疲《つか》れて一足も歩《ある》かれません。どうぞお情《なさ》けに、しばらくわたくしどもを休《やす》ませていただきとうございます。」
 と、さも心細《こころぼそ》そうにいいました。
 鬼《おに》どもは、
「これは珍《めずら》しい者《もの》がやって来《き》たぞ。なにしろ大王様《だいおうさま》に申《もう》し上《あ》げよう。」
 といって、酒呑童子《しゅてんどうじ》の所《ところ》へ行ってしらせますと、
「それはおもしろい。すぐ奥《おく》へとおせ。」
 といいました。
 六|人《にん》の武士《ぶし》が縁側《えんがわ》に上《あ》がって待《ま》っていますと、やがて雷《かみなり》や稲光《いなびかり》がしきりに起《お》こって、大風《おおかぜ》のうなるような音《おと》がしはじめました。すると間《ま》もなくそこへ、一|丈《じょう》にもあまろうという大きな赤鬼《あかおに》が、髪《かみ》の毛《け》を逆立《さかだ》てて、お皿《さら》のような目をぎょろぎょろさせながら出《で》て来《き》ました。その姿《すがた》を一目《ひとめ》見《み》ただけで、だれだっておどろいて気《き》を失《うしな》わずにはいられません。けれども頼光《らいこう》はじめ六|人《にん》の武士《ぶし》はびくともしないで、酒呑童子《しゅてんどうじ》の顔《か
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