どお》りのない谷奥《たにおく》へ牛《うし》を引《ひ》いて行くのを妙《みょう》に思《おも》って、
「これこれ、牛《うし》を引《ひ》いてどこへ行くのだ。谷底《たにそこ》の人のいない所《ところ》で、殺《ころ》して食《た》べるつもりだろう。」
 といいながら、百姓《ひゃくしょう》をつかまえて、牢屋《ろうや》へ連《つ》れて行こうとしました。
「いいえ、わたくしはこの牛《うし》に、百姓《ひゃくしょう》たちの食《た》べ物《もの》を積《つ》んで引《ひ》いて行くだけで、けっして殺《ころ》して食《た》べるのではありません。」
 といいました。けれども王子《おうじ》はうそだといって、なかなか聴《き》いてくれませんので、百姓《ひゃくしょう》はしかたなしに、もらった赤《あか》い玉《たま》を出《だ》して、王子《おうじ》にやって、やっと放《はな》してもらいました。
 王子《おうじ》がその玉《たま》をうちへ持《も》って帰《かえ》って、床《とこ》の間《ま》に飾《かざ》っておきますと、その晩《ばん》、赤《あか》い玉《たま》が急《きゅう》に一人《ひとり》の美《うつく》しい娘《むすめ》になりました。王子《おうじ》はその娘《む
前へ 次へ
全7ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング