てごらんなさい。」
 といって鏡《かがみ》を渡《わた》しました。
 それから間《ま》もなく、おかあさんはとうとう息《いき》を引《ひ》き取《と》りました。あとに取《と》り残《のこ》された娘《むすめ》は、悲《かな》しい心《こころ》をおさえて、おとうさんの手助《てだす》けをして、おとむらいの世話《せわ》をまめまめしくしました。
 おとむらいがすんでしまうと、急《きゅう》にうちの中がひっそりして、じっとしていると、寂《さび》しさがこみ上《あ》げてくるようでした。娘《むすめ》はたまらなくなって、
「ああ、おかあさんに会《あ》いたい。」
 と独《ひと》り言《ごと》をいいましたが、ふとあの時《とき》おかあさんにいわれたことを思《おも》い出《だ》して、鏡《かがみ》を出《だ》してみました。
「ほんとうにおかあさんが会《あ》いに来《き》て下《くだ》さるかしら。」
 娘《むすめ》はこういいながら、鏡《かがみ》の中をのぞきました。するとどうでしょう、鏡《かがみ》の向《む》こうにはおかあさんが、それはずっと若《わか》い美《うつく》しい顔《かお》で、にっこり笑《わら》っていらっしゃいました。娘《むすめ》はぼうっと
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