松山鏡
楠山正雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)越後国《えちごのくに》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)おやこ三|人《にん》
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     一

 むかし越後国《えちごのくに》松《まつ》の山家《やまが》の片田舎《かたいなか》に、おとうさんとおかあさんと娘《むすめ》と、おやこ三|人《にん》住《す》んでいるうちがありました。
 ある時《とき》おとうさんは、よんどころない用事《ようじ》が出来《でき》て、京都《きょうと》へ上《のぼ》ることになりました。昔《むかし》のことで、越後《えちご》から都《みやこ》へ上《のぼ》るといえば、幾日《いくにち》も、幾日《いくにち》も旅《たび》を重《かさ》ねて、いくつとなく山坂《やまさか》を越《こ》えて行《い》かなければなりません。ですから立《た》って行くおとうさんも、あとに残《のこ》るおかあさんも心配《しんぱい》でなりません。それで支度《したく》が出来《でき》て、これから立《た》とうというとき、おとうさんはおかあさんに、
「しっかり留守《るす》を頼《たの》むよ。それから子供《こども》に気《き》をつけてね。
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