なく、一生懸命《いっしょうけんめい》にかんびょうしましたが、病気《びょうき》はだんだん重《おも》るばかりで、もう今日《きょう》明日《あす》がむずかしいというまでになりました。
 その夕方《ゆうがた》、おかあさんは娘《むすめ》をそばに呼《よ》び寄《よ》せて、やせこけた手で、娘《むすめ》の手をじっと握《にぎ》りながら、
「長《なが》い間《あいだ》、お前《まえ》も親切《しんせつ》に世話《せわ》をしておくれだったが、わたしはもう長《なが》いことはありません。わたしが亡《な》くなったら、お前《まえ》、わたしの代《か》わりになって、おとうさんをだいじにして上《あ》げて下《くだ》さい。」
 といいました。娘《むすめ》は何《なん》ということもできなくって、目にいっぱい涙《なみだ》をためたまま、うつむいていました。
 その時《とき》おかあさんはまくらの下から鏡《かがみ》を出《だ》して、
「これはいつぞやおとうさんから頂《いただ》いて、だいじにしている鏡《かがみ》です。この中にはわたしの魂《たましい》が込《こ》めてあるのだから、この後《のち》いつでもおかあさんの顔《かお》が見《み》たくなったら、出《だ》し
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