ました。
 おかあさんはそれが何《なん》にするものだか分《わ》からないので、うらを返《かえ》したり、おもてを見《み》たり、ふしぎそうな顔《かお》ばかりしていますので、おとうさんは笑《わら》い出《だ》して、
「お前《まえ》、それは鏡《かがみ》といって、都《みやこ》へ行かなければ無《な》いものだよ。ほら、こうして見《み》てごらん、顔《かお》がうつるから。」
 といって、鏡《かがみ》のおもてをおかあさんの顔《かお》にさし向《む》けました。おかあさんはその時《とき》鏡《かがみ》の上にうつった自分《じぶん》の顔《かお》をしげしげとながめて、
「まあ、まあ。」
 といっていました。

     二

 それから幾年《いくねん》かたちました。娘《むすめ》もだんだん大きくなりました。ちょうど十五になった時《とき》、おかあさんはふと病気《びょうき》になって、どっと寝込《ねこ》んでしまいました。
 おとうさんは心配《しんぱい》して、お医者《いしゃ》にみてもらいましたが、なかなかよくなりません。娘《むすめ》は夜《よる》も昼《ひる》もおかあさんのまくら元《もと》につきっきりで、ろくろく眠《ねむ》る暇《ひま》も
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