ね。」
「まだ、たんと寝《ね》なければお帰《かえ》りにはなりませんよ。」
「おかあさん、京都《きょうと》ってそんなに遠《とお》い所《ところ》なの。」
「ええ、ええ、もうこれから百|里《り》の余《よ》もあって、行《い》くだけに十日《とおか》あまりかかって、帰《かえ》りにもやはりそれだけかかるのですからね。」
「まあ、ずいぶん待《ま》ちどおしいのね。おとうさん、どんなおみやげを買《か》っていらっしゃるでしょう。」
「それはきっといいものですよ。楽《たの》しみにして待《ま》っておいでなさい。」
そんなことをいいいい、毎日《まいにち》暮《く》らしているうちに、十日《とおか》たち、二十日《はつか》たち、もうかれこれ一月《ひとつき》あまりの月日《つきひ》がたちました。
「もうたんと、ずいぶん飽《あ》きるほど寝《ね》たのに、まだおとうさんはお帰《かえ》りにならないの。」
と、娘《むすめ》は待《ま》ち切《き》れなくなって、悲《かな》しそうにいいました。
おかあさんは指《ゆび》を折《お》って日を数《かぞ》えながら、
「ああ、もうそろそろお帰《かえ》りになる時分《じぶん》ですよ。いつお帰《かえ》りに
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