六|間《けん》行くと、またうしろから、
「馬吉《うまきち》、馬吉《うまきち》。」
と呼《よ》ぶ声《こえ》が聞《き》こえました。しかもせんよりはずっと声《こえ》が近《ちか》くなりました。
馬吉《うまきち》は思《おも》わず耳《みみ》をおさえて、目をつぶって、だまって二足《ふたあし》三足《みあし》行きかけますと、こんどは耳《みみ》のはたで、
「馬吉《うまきち》、馬吉《うまきち》。」
と呼《よ》ばれました。その声《こえ》があんまり大きかったので、馬吉《うまきち》ははっとして、思《おも》わず、
「はい。」
といいながら、ひょいとうしろを振《ふ》り向《む》くと驚《おどろ》きました、もう一|間《けん》とへだたっていないうしろに、ねずみ色《いろ》のぼろぼろの着物《きもの》を着《き》て、やせっこけて、いやな顔《かお》をしたおばあさんが、すっとそこに立《た》っているのです。そして馬吉《うまきち》の顔《かお》を見《み》ると、にたにたと笑《わら》って、やせたいやらしい手で、「おいで、おいで。」をしました。
馬吉《うまきち》は、
「あッ。」
といったなり、そこに立《た》ちすくんでしまいました。すると
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