が降《ふ》る。」
[#ここで字下げ終わり]
 と歌《うた》いました。
 山姥《やまうば》がいい心持《こころも》ちそうに、ぱちぱちいう枯《か》れ枝《えだ》の音《おと》を雨《あめ》の音《おと》だと思《おも》って聞《き》いていますと、その間《ま》に馬吉《うまきち》は枯《か》れ枝《えだ》に火をつけました。お釜《かま》のそこがだんだんあつくなってきて、そのうちじりじり焦《こ》げてきたので、さすがの山姥《やまうば》もびっくりして、
「おお、あつい。」
 といって飛《と》び上《あ》がりました。そしていきなりふたを持《も》ち上《あ》げてとび出《だ》そうとしますと、上から重《おも》しがのしかかっていて、身動《みうご》きができません。山姥《やまうば》はおこって、お釜《かま》の中で、「きゃッ、きゃッ。」とさけびながら、狂《くる》いまわりました。
 馬吉《うまきち》はかまわずどんどん枯《か》れ枝《えだ》を燃《も》やしながら、
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「馬《うま》喰《く》うばばあはどこにいる。
寒《さむ》けりゃどんどん焚《た》いてやる。
あつけりゃ火になれ、骨《ほね》になれ。」
[#ここで字下げ終わり]
 と歌《うた》いました。
 とうとうお釜《かま》が上まで真《ま》っ赤《か》に焼《や》けました。その時分《じぶん》には、山姥《やまうば》もとうにからだ中《じゅう》火《ひ》になって、やがて骨《ほね》ばかりになってしまいました。

     山姥《やまうば》と娘《むすめ》

       一

 むかしあるところに、お百姓《ひゃくしょう》のおとうさんとおかあさんがありました。夫婦《ふうふ》の間《あいだ》には十《とお》になるかわいらしい女の子がありました。ある日おとうさんとおかあさんは、野《の》らへお百姓《ひゃくしょう》のしごとをしに行く時《とき》に、女の子を一人《ひとり》お留守番《るすばん》に残《のこ》して、
「だれが来《き》てもけっして戸《と》をあけてはならないよ。」
 といいつけて、鍵《かぎ》をかけて出て行きました。
 女の子は一人《ひとり》ぼっちとり残《のこ》されて、さびしくって心細《こころぼそ》くってしかたがありませんから、小《ちい》さくなっていろりにあたっていました。するとお昼《ひる》ごろになって、外《そと》の戸《と》をとんとん、たたく音《おと》がしました。
「だあれ。」
 と、女の子が
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