いいました。
「わたしだよ。すぐにあけておくれ。」
と、おばあさんらしい声《こえ》が聞《き》こえました。
「でもあけてはいけないんだって、おとうさんとおかあさんがそういったから。」
と、女の子はいいました。
「何《なん》だって。よしよし、あけてくれなければ、この戸《と》をけ破《やぶ》ってやる。」
こういっていきなり戸《と》に手をかけて、みりみり動《うご》かしながら、両足《りょうあし》でどんどん、どんどん、けつけました。女の子はびっくりして、困《こま》って、しかたがないものですから、戸《と》をあけてやりました。
戸《と》をあけると、ぬっと、おそろしい顔《かお》をした山姥《やまうば》が入《はい》って来《き》て、炉《ろ》ばたに足《あし》をなげ出《だ》して、
「おお、寒《さむ》い、寒《さむ》い。」
といいました。
「おばあさん、何《なに》しに来《き》たの。」
と、女の子はたずねました。
「おなかがすいた。早《はや》く御飯《ごはん》の支度《したく》をしろ。」
と、山姥《やまうば》はこわい顔《かお》をしていいつけました。
女の子はぶるぶるふるえながら、台所《だいどころ》へ行って、御飯《ごはん》のいっぱい入《はい》ったおはちを持《も》って来《き》ました。山姥《やまうば》はおはちのふたをあけて、手づかみでせっせと御飯《ごはん》をつめこみながら、たくあんをまるごと、もりもりかじっていました。その間《あいだ》に女の子は、そっとうちから抜《ぬ》け出《だ》して、逃《に》げて行きました。
どんどん逃《に》げて行って、山《やま》の下まで来《く》ると、御飯《ごはん》を食《た》べてしまった山姥《やまうば》が、いくらさがしても女の子がいないので、大《たい》そうおこって、
「おう、おう。」
といいながら追《お》っかけて来《き》ました。ずいぶん一生懸命《いっしょうけんめい》駆《か》けたのですけれど、山姥《やまうば》の足《あし》に小《ちい》さな女の子がかなうはずはありませんから、ずんずん追《お》いつかれて、もう一足《ひとあし》で山姥《やまうば》に肩《かた》をつかまれそうになりました。女の子は夢中《むちゅう》で一生懸命《いっしょうけんめい》逃《に》げますと、山の上からしばを背中《せなか》にしょって下《お》りて来《く》るおじいさんに出《で》あいました。
「おじいさん、おじいさん。山姥《やま
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