に、参事官はずんずん東通をとおりぬけて、高橋広場《たかばしひろば》にでました。ところが宮城広場へ出る大きな橋がみつかりません。やっとあさい小川をみつけてその岸に出ました。そのうち小舟にのってやって来るふたりの船頭らしい若者にであいました。
「島《ホルメン》へ渡りなさるのかな。」と、船頭はいいました。
「島《ホルメン》へ渡るかって。」と、参事官はおうむ返しにこたえました。なにしろ、この人はまた、じぶんが今、いつの時代に居るのか、はっきり知らなかったのです。
「わたしは、クリスティアンス ハウンから小市場通へいくのだよ。」
こういうと、こんどはむこうがおどろいて顔をみました。
「ぜんたい橋はどこになっているのだ。」と参事官はいいました。「第一ここにあかりをつけておかないなんてけしからんじゃないか。それにこのへんはまるで沼の中をあるくようなひどいぬかるみだな。」
こんなふうに話しても、話せば話すほど船頭にはよけいわからなくなりました。
「どうもおまえたちの*ボルンホルムことばは、さっぱりわからんぞ。」と、参事官はかんしゃくをおこしてどなりつけました。そして背中をむけてどんどんあるきだしま
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