した。
 むかしの服装をした人がふたり、すぐそばを通っていきました。
「おや、なんというふうをしているのだ。仮装舞踏会《かそうぶとうかい》からかえって来た人たちかな。」と、参事官は、ひとりごとをいいました。
 ふとだしぬけに、太皷と笛の音《ね》がきこえて、たいまつがあかあかかがやき出しました。参事官はびっくりしてたちどまりますと、そのとき奇妙な行列が鼻のさきを通っていきました。まっさきには皷手の一隊が、いかにもおもしろそうに太皷を打ちながら進んで来ました。そのあとには、長い弓と石弓をかついだ随兵《ずいひょう》がつづきました。この行列のなかでいちばんえらそうな人は坊さんの殿様でした。びっくりした参事官は、いったいこれはいつごろの風をしているので、このすいきょうらしい仮装行列をやってあるく人はたれなのだろう、といって、行列のなかの人にたずねました。
「シェランの大|僧正《そうじょう》さまです。」と、たれかがこたえました。
「大僧正のおもいつきだと、とんでもないことだ。」と、参事官はため息をついてあたまを振りました。そんな大僧正なんてあるものか。ひとりで不服をとなえながら、右も左もみかえらず
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