ありません。たくさん勲章をぶら下げている若い士官の心でした。しかし、世間ではこの人を才と情のかねそなわった人物だといっていました。
あわれな助手は、列のいちばんおしまいの人の心からぬけだしたとき、すっかりあたまがへんになっていて、まるでかんがえがまとまりませんでした。やたらとはげしいもうぞう[#「もうぞう」に傍点]が、じぶんといっしょにかけずりまわったのだとおもいました。
「やれやれ、おどろいた。」と、助手はため[#「ため」に傍点]息をつきました。「おれはどうも気ちがいになるうまれつきらしい。それに、ここは、むやみと暑い。血があたまにのぼるわけさ。」
そこで、ふとゆうべの、病院の鉄さくにあたまをはさまれた大事件をおもいだしました。
「きっとあのとき病気にかかったにちがいない。」と、助手はおもいました。「すぐどうかしなければならない。ロシア風呂《ぶろ》がきくかも知れない。ならば一等上のたなにねたいものだ。」
するともう、さっそくに蒸風呂《むしぶろ》のいちばん上のたなにねていました。ところで、着物を着たなり、長ぐつも、うわおいぐつもそのままでねていました。天井《てんじょう》からあつい
前へ
次へ
全70ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング