しずくが、ぽた、ぽた、顔に落ちて来ました。
「うわあ。」と、とんきょう[#「とんきょう」は底本では「とんきょと」]にさけんで、こんどは灌水浴《かんすいよく》をするつもりで下へおりました。
 湯番は着物を着こんだ男がとびだしたのをみてびっくりして、大きなさけび声をたてました。
 でも、そういうなか[#「なか」は底本では「な声」]で、助手は、湯番の耳に、
「なあにかけ[#「かけ」に傍点]をしているのだよ。」と、ささやくだけの余裕《よゆう》がありました。さて、へやにかえってさっそくにしたことは、首にひとつ、背中にひとつ、大きなスペイン発泡膏《はっぽうこう》をはることでした。これでからだのなかの気ちがいじみた毒気を吸いとろうというわけです。
 明くる朝、助手は、赤ただれたせなかを[#「せなかを」は底本では「せなをか」]していました。これが幸福のうわおいぐつからさずけてもらった御利益《ごりやく》のいっさいでした。
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   五 書記の変化《へんげ》

[#挿絵(fig42380_05.png)入る]
 さて、わたしたちがまだ忘れずにいたあの夜番は、そのうち、じぶんがみつけて、病院ま
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