った肉屋の店を、四つんばいになってはいあるきました。ここは肉ばかりでした。どこまでいっても、肉のほかなにもありませんでした。これはお金持のりっぱな紳士《しんし》の心でした。おそらく、この人の名まえは紳士録にのっているでしょう。
こんどはその紳士の奥さまの心のなかにはいりました。その心は、古い荒れはてたはと[#「はと」に傍点]小屋でした。ごていしゅの像がほんの風見《かざみ》のにわとり代りにつかわれていました。その風見は、小屋の戸にくっついていて、ごていしゅの風見がくるりくるりするとおりに、あいたりとじたりしました。
それからつぎには、ローゼンボルのお城でみるような鏡の間《ま》にでました。でもこの鏡は、うそらしいほど大きくみせるようにできていました。床《ゆか》のまんなかには、達頼喇嘛《ダライラマ》のように、その持主のつまらない「わたし」が、じぶんでじぶんの家の大きいのにあきれながらすわっていました。
それからこんどは、針がいっぱいつんつんつッたっている、せまい針箱のなかにはこばれました。これはきっと年をとっておよめにいけないむすめの心にちがいないとおもいました。けれど、じつはそうでは
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