《へいけ》の一門《いちもん》に見立《みた》てて、その中で一ばん大きな木に清盛《きよもり》という名《な》をつけて、小《ちい》さな木太刀《きだち》でぽんぽん打《う》ちました。
 するとある晩《ばん》のことでした。牛若《うしわか》がいつものように僧正《そうじょう》ガ谷《たに》へ出かけて剣術《けんじゅつ》のおけいこをしていますと、どこからか鼻《はな》のばかに高《たか》い、見上《みあ》げるような大男《おおおとこ》が、手に羽《は》うちわをもって、ぬっと出て来《き》ました。そしてだまって牛若《うしわか》のすることを見《み》ていました。牛若《うしわか》は不思議《ふしぎ》に思《おも》って、
「お前《まえ》はだれだ。」
 といいますと、その男《おとこ》は笑《わら》って、
「おれはこの僧正《そうじょう》ガ谷《たに》に住《す》むてんぐだ。お前《まえ》の剣術《けんじゅつ》はまずくって見《み》ていられない。今夜《こんや》からおれが教《おし》えてやろう。」
 といいました。
「それはありがとう。じゃあ、おしえて下《くだ》さい。」
 と、牛若《うしわか》は木太刀《きだち》を振《ふ》るって打《う》ってかかりました。てん
前へ 次へ
全15ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング