その中には太鼓《たいこ》だのほら貝《がい》だのの音《おと》も交《まじ》って、まるで戦争《せんそう》のようなさわぎが、だんだんとこちらの方《ほう》に近《ちか》づいて来《き》ました。主従《しゅじゅう》は何事《なにごと》がはじまったのかと思《おも》って思《おも》わず立《た》ちかけますと、その時《とき》すぐ前《まえ》の草叢《くさむら》の中で、「こんこん。」と悲《かな》しそうに鳴《な》く声《こえ》が聞《き》こえました。そして若《わか》い牝狐《めぎつね》が一|匹《ぴき》、中から風《かぜ》のように飛《と》んで来《き》ました。「おや。」という間《ま》もなく、狐《きつね》は保名《やすな》の幕《まく》の中に飛《と》び込《こ》んで来《き》ました。そして保名《やすな》の足《あし》の下で首《くび》をうなだれ、しっぽを振《ふ》って、さも悲《かな》しそうにまた鳴《な》きました。それは人に追《お》われて逃《に》げ場《ば》を失《うしな》った狐《きつね》が、ほかの慈悲《じひ》深《ぶか》い人間《にんげん》の助《たす》けを求《もと》めているのだということはすぐ分《わ》かりました。保名《やすな》は情《なさ》け深《ぶか》い侍《さ
前へ 次へ
全37ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング