《となり》の和泉国《いずみのくに》の信田《しのだ》の森《もり》の明神《みょうじん》のお社《やしろ》に月詣《つきまい》りをして、どうぞりっぱな子供《こども》を一人《ひとり》お授《さず》け下《くだ》さいましと、熱心《ねっしん》にお祈《いの》りをしていました。
 ある年《とし》の秋《あき》の半《なか》ばのことでした。保名《やすな》は五六|人《にん》の家来《けらい》を連《つ》れて、信田《しのだ》の明神《みょうじん》の参詣《さんけい》に出かけました。いつものとおりお祈《いの》りをすましてしまいますと、折《おり》からはぎやすすきの咲《さ》き乱《みだ》れた秋《あき》の野《の》の美《うつく》しい景色《けしき》をながめながら、保名主従《やすなしゅじゅう》はしばらくそこに休《やす》んで、幕張《まくば》りの中でお酒盛《さかも》りをはじめました。
 そのうちだんだん日が傾《かたむ》きかけて、短《みじか》い秋《あき》の日は暮《く》れそうになりました。保名主従《やすなしゅじゅう》はそろそろ帰《かえ》り支度《じたく》をはじめますと、ふと向《む》こうの森《もり》の奥《おく》で大ぜいわいわいさわぐ声《こえ》がしました。
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