、二つの品物《しなもの》を保名《やすな》に渡《わた》しますと、そのまますうっと狐《きつね》の姿《すがた》はやみの中に消《き》えてしまいました。

     三

 狐《きつね》のふしぎな宝物《たからもの》を授《さず》かったせいでしょうか、狐《きつね》の子供《こども》の阿倍《あべ》の童子《どうじ》は、並《なみ》の子供《こども》と違《ちが》って、生《う》まれつき大《たい》そう賢《かしこ》くて、八つになると、ずんずんむずかしい本《ほん》を読《よ》みはじめ、阿倍《あべ》の家《いえ》に昔《むかし》から伝《つた》わって、だれも読《よ》む者《もの》のなかった天文《てんもん》、数学《すうがく》の巻《ま》き物《もの》から、占《うらな》いや医学《いがく》の本《ほん》まで、何《なん》ということなしにみな読《よ》んでしまって、もう十三の年《とし》には、日本中《にっぽんじゅう》でだれもかなうもののないほどの学者《がくしゃ》になってしまいました。
 するとある日のことでした。童子《どうじ》はいつものとおり一間《ひとま》に入《はい》って、天文《てんもん》の本《ほん》をしきりに読《よ》んでいますと、すぐ前《まえ》の庭
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