この子のそばにいたいのですけれど、わたしはもう二|度《ど》と人間《にんげん》の世界《せかい》に帰《かえ》ることのできない身《み》になりました。これを形見《かたみ》に残《のこ》しておきますから、いつまでもわたしを忘《わす》れずにいて下《くだ》さい。」
 こういって葛《くず》の葉《は》狐《ぎつね》は一|寸《すん》四|方《ほう》ぐらいの金《きん》の箱《はこ》と、水晶《すいしょう》のような透《す》き通《とお》った白い玉《たま》を保名《やすな》に渡《わた》しました。
「この箱《はこ》の中に入《はい》っているのは、竜宮《りゅうぐう》のふしぎな護符《ごふ》です。これを持《も》っていれば、天地《てんち》のことも人間界《にんげんかい》のことも残《のこ》らず目に見《み》るように知《し》ることができます。それからこの玉《たま》を耳《みみ》に当《あ》てれば、鳥獣《とりけもの》の言葉《ことば》でも、草木《くさき》や石《いし》ころの言葉《ことば》でも、手に取《と》るように分《わ》かります。この二つの宝物《たからもの》を子供《こども》にやって、日本《にっぽん》一の賢《かしこ》い人にして下《くだ》さい。」
 といって
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