子供《こども》に見《み》られたことを、死《し》ぬほどはずかしくも、悲《かな》しくも思《おも》いました。
「もうどうしても、このままこうしていることはできない。」
こう葛《くず》の葉《は》はいって、はらはらと涙《なみだ》をこぼしました。
そういいながら、八|年《ねん》の間《あいだ》なれ親《した》しんだ保名《やすな》にも、子供《こども》にも、この住《すま》いにも、別《わか》れるのがこの上なくつらいことに思《おも》われました。さんざん泣《な》いたあとで、葛《くず》の葉《は》は立《た》ち上《あ》がって、そこの障子《しょうじ》の上に、
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「恋《こい》しくば
たずね来《き》てみよ、
和泉《いずみ》なる
しのだの森《もり》の
うらみ葛《くず》の葉《は》。」
[#ここで字下げ終わり]
とこう書《か》いて、またしばらく泣《な》きくずれました。そしてやっと思《おも》いきって立《た》ち上《あ》がると、またなごり惜《お》しそうに振《ふ》り返《かえ》り、振《ふ》り返《かえ》り、さんざん手間《てま》をとった後《あと》で、ふいとどこかへ出ていってしまいました。
もう日が暮《く》れかけて
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